精霊たちと心の森めぐり―第一章 第4話

完璧の呪縛と解放 ― リリルのはなし

休息を終えた5人は、再び森を歩き出した。

しばらく行くと、小さな泉に辿り着く。

澄んだ水面には、緑の木々と仲間たちの顔が鏡のように映っていた。

「わぁ、きれい!」とハルメが声を上げる。

だがリリルは泉を覗き込んだまま、ふっと眉をひそめた。

「……あぁ、また髪が乱れてる。」

手櫛で直しながら、映る自分の姿をじっと見つめる。

完璧でなければならない?

「リリル、十分きれいだよ。」

ジンが欠伸交じりに言うと、リリルは即座に反論した。

「“十分”じゃ足りないの。いつでも完璧でなければならないのよ。」

フユカが呆れたように肩をすくめる。

「また始まった。誰がそんなこと決めたのよ。」

リリルは視線を逸らし、小さな声で答える。

「……私自身よ。完璧じゃなければ、誰にも認めてもらえない気がするの。」

その言葉には、いつも凛としたリリルの姿からは想像できないほどの弱さが滲んでいた。

小さな欠けを見つけて

その時、ハルメが泉のそばの石を拾い上げた。

石の表面にはひびが走り、ところどころ欠けている。

「見て!この石、欠けてるけど、なんか星みたいでかわいい!」

ハルメは嬉しそうに笑う。

「欠けてる……のに?」

リリルは石をじっと見つめる。

ジンがのんびりと続ける。

「完璧ってさ、見方によっては息が詰まるんだよな。ちょっと欠けてるくらいの方が、味があるだろ。」

フユカも頷く。

「それに、欠けてるからこそ、他のものと重なり合えるんじゃない?」

リリルは沈黙したまま、泉の水に映る自分をもう一度見つめた。

そこには、風に乱れた髪、少し疲れた表情、仲間と共にいる“生身の自分”が映っていた。

香りがほどく呪縛

ふわりとミルラの静かな深い香りが漂った。

古代から「癒しと再生」の象徴とされる香り。

その匂いに包まれると、リリルの胸に絡みついていた糸がほどけていくようだった。

「……完璧じゃなくても、私はここにいていいのかもしれない。」

リリルは小さな声でそうつぶやいた。

カヤノが微笑む。

「リリルが少し弱さを見せてくれると、僕も安心するんだ。…“あ、僕だけじゃないんだ”って。」

リリルは驚いたように目を見開き、やがてふっと笑った。

あなたへのメッセージ

「完璧でなければならない」と思っていませんか?

それは、とても苦しい鎖になることがあります。

でも実際には、欠けや不完全さの中にこそ、あなただけの魅力が宿ります。

人とのつながりも、弱さを見せるからこそ深まるのです。

もし最近「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い詰めているなら、

リリルのように「欠けてもいい」と思ってみませんか?


泉のほとりで、自分の小さな不完全さを受け入れたリリル。

その横顔は、以前よりずっと柔らかかった。

そして次に物語の中心になるのは、いつも周りを明るく照らす精霊―ハルメ。


🍀次回は 「笑顔の裏にあるもの ―ハルメと“ほんとうの気持ち”」 へ続きます。