精霊たちと心の森めぐり―第一章 第2話

涙の泉とやさしい風 — カヤノのはなし

森の奥へ進む道は、少しずつ暗くなっていった。

木々の背は高く、枝葉が空を覆い隠す。

昼間なのに、あたりは夕暮れのように影が濃い。

「……あ、あの……」

小さな声が後ろから聞こえた。

振り返ると、カヤノが立ち止まっていた。

両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、目にはうっすら涙が浮かんでいる。

不安の涙

「どうしたの?」とハルメが首をかしげる。

カヤノは視線を落としたまま、小さく答えた。

「……森の音が、ちょっと怖いの。

 カラスみたいな声もするし……もし迷ったら、どうしようって。」

フユカが少し眉をひそめる。

「また不安?大丈夫だって言ったでしょ。」

その言葉に、カヤノの涙がついにこぼれ落ちた。

「わかってるの。でも……“大丈夫”って言葉を聞くと、逆に、僕が弱いからこんなに不安になるのかなって思っちゃうの。」

静かな森に、カヤノのすすり泣く声が広がった。

涙は弱さじゃない

その時、ジンがいつもの調子でつぶやいた。

「涙って、からだの掃除みたいなもんだよな。ため込みすぎると、余計に重くなるし。」

リリルも頷いて、そっとカヤノの肩に触れる。

「そうよ。涙は、心のバランスを整えるために流れるものなの。あなたが繊細だからこそ、誰よりも早く変化に気づけるの。」

カヤノは目を丸くして、涙で濡れたまつげを震わせた。

「……そうなのかな。」

フユカは少し気まずそうに頭をかいた。

「ごめん、ついきつく言っちゃった。でも、泣いてるカヤノを見て、ちゃんと気づけた。ありがと。」

やさしい風に包まれて

そのとき、森をめぐる風が吹き抜けた。

ラベンダーの柔らかい香りが漂い、カヤノの涙をそっと乾かしていく。

香りはまるで「ここにいても大丈夫」と語りかけるようだった。

胸の奥のざわつきが少しずつ鎮まり、呼吸が楽になる。

「……なんだか、安心してきた。」

カヤノは小さく笑った。涙のあとには、ほんのり温かい光が宿っていた。


不安を抱えることの意味

不安を感じやすい人は、自分を責めてしまいがち。

「私は弱いから」「人に迷惑をかけてしまうから」と。

でも本当は、不安は “心のセンサー” のようなもの。

他の人が見過ごす危険や違和感に、誰よりも早く気づける。

それは大切な能力であり、仲間を守る力にもなる。

涙は、そのセンサーが働いた証。

それを押し殺さずに流せたとき、心はまた前に進む準備を整える。

あなたへのメッセージ

もし最近、不安で胸がいっぱいになったり、涙がこぼれそうになったことがあるなら、

それを「弱さ」だと決めつけなくてもいいかもしれません。

涙は、あなたの心が「安心したい」と願っているサイン。

その声に耳を傾けて、不安を誰かに話してみたら、安心に変わるかもしれません。


森の道を再び歩き出した五人の精霊たち。

カヤノの涙が落ちた土の上には、小さな花が芽を出していた。

次に物語を彩るのは、怠け者に見えて実は一番周りをよく見ている精霊―ジン。

🍀次回、第3話「ごろ寝の魔法 ― ジンのはなし」