精霊たちと心の森めぐり ―第一章 プロローグ

冒険のはじまり

森の精霊たちが、なにやら集まって冒険の準備をはじめるようです。

5人の個性豊かな精霊たち。

きっと、その道のりには、たくさんのストーリーが待っているはずです

森の集会所にて

森の真ん中に、大きな木が立っている。

幹は大人が十人で囲めそうなほど太く、根は地面から盛り上がって、まるで大きな椅子や机のように形をつくっている。

この木は「集会の木」と呼ばれ、森の精霊たちが集まる場所だ。

今朝も、その根元に一人の影が立っていた。

黒髪に赤いメッシュ、赤い着物を着たフユカだ。腕を組み、眉を少しひそめている。

「まったく…集合時間過ぎてるんだけど?あんたも、いつまでそうしてるのよ⁉︎」

声の先にいるのは、木の根に寝転がっているジン。

サンダルウッドの香りをまとい、半分まぶたを閉じたまま答える。

「だって、立ってても座ってても、待ってる時間は同じだろ。それに、座り心地のいい根っこは貴重なんだよなぁ。」

「言い訳してないで、少しは準備しなさいよ!」

そんなやり取りの隣で、ひときわ整った姿勢の精霊が髪をなでつけた。リリルだ。

淡い薔薇の香りが風に混じる。

「その根っこの苔のところ、乱れてるわ。あなたが動くとき、また手入れしておくわね。」

ジンは肩をすくめ、目を閉じたまま「はいはい」とだけ返す。

その時、森の入り口から小さな足音が響いてきた。

ハルメが駆けてくる。頬を上気させ、目は期待で輝いている。

「おはよー!きょうは森の奥まで冒険に行くんだよねー!」

その声につられて、少し離れた場所からカヤノが顔を出す。

淡いラベンダーの香りをまとった、やわらかい雰囲気の精霊だ。

けれど、その声は少し不安げだった。

「奥…?あそこ、少し暗いし、道がわかりにくいから…迷ったらどうしよう…」

「だからアタシがついてるって。大丈夫、大丈夫。」

フユカが胸を張って言う。

だがジンが、ぼそっと口をはさんだ。

「“大丈夫”って言葉、当てにならない時もあるけどね。」

リリルはその言葉に反応して、静かに頷く。

「じゃあ、計画を立ててから行きましょう。地図も作るわ。」

ハルメはむっとして頬をふくらませた。

「計画ばっかりじゃつまんないよー!」

その様子を見て、カヤノは苦笑した。

「…でも、みんなで準備、ちょっと楽しそうかも。」


森の集会の木に集まったのは、いつもこの5人。

  • フユカ:姉御肌で、怒りや苛立ちを隠さない。でも仲間を守るためには誰よりも動く。
  • カヤノ:共感力が高く、人の不安を自分のことのように感じてしまう繊細な心の持ち主。
  • ジン:怠け者に見えるけれど、核心をつく一言を放つ現実派。
  • リリル:美と秩序を重んじる完璧主義者。
  • ハルメ:喜怒哀楽が激しく、感情のまま動く無邪気な存在。

この日も、性格も考え方もバラバラな5人が集まった。

けれど、フユカの怒りも、カヤノの不安も、ジンの怠けも、リリルのこだわりも、ハルメの衝動も——全部、この森の一部に溶けこんでいる。

そして、森を歩くうちに、その感情たちは少しずつ形を変えていく。

怒りは勇気に、不安は優しさに、怠けは休息に、こだわりは美しさに、衝動は新しい始まりに。


さあ、今日はどんな旅になるだろう。

森の奥で見つけるのは、新しい景色か、それとも自分の中の知らなかった感情か。

「じゃあ、行くわよ!」とフユカが声をあげた。

5人の精霊たちが、それぞれの香りをまとって森の奥へ歩き出す。

そこから始まるのは─心の森めぐり。

あなたも、彼らと一緒に歩いてみませんか。

🍀次回、第1話「怒りの炎と鎮静の香り―フユカのはなし」