笑顔の裏にあるもの ―ハルメのはなし

森の道を進む一行は、だんだんと険しい坂道に差しかかっていた。
息が上がるフユカ、心配そうに辺りを見回すカヤノ、黙って歩を進めるリリル。
そんな中で、一人だけ元気いっぱいなのは、やはりハルメだった。
「ねぇ見て!リスが木の上で逆立ちしてるみたい!」
「疲れた顔してちゃもったいないよ。ほら、笑って笑って!」
その明るさにみんなの表情が和らぐ。
けれど、ジンはふと小さくつぶやいた。
「……ハルメ、お前さ、無理してないか?」
いつもの笑顔の裏で
ハルメは一瞬だけ足を止めたが、すぐに笑顔を作った。
「え?なに言ってるの、ハルメは全然平気だよ!」
だが、その声はどこか震えていた。
フユカが眉をひそめる。
「なんか……ちょっと違う気がするな。」
カヤノがそっと口を開いた。
「もし無理して笑ってるなら……僕たちに見せてもいいんだよ?」
リリルも静かに頷いた。
「完璧な笑顔じゃなくても、私たちはハルメを好きでいるから。」
その言葉に、ハルメの目がわずかに揺れた。
はじめての涙
「……ほんとはね。」
ハルメは小さな声でつぶやいた。
「ハルメが笑ってないと、みんなが暗くなっちゃう気がして。
だから、ずっと“楽しいよ!”って言い続けてきたの。
でも……本当は時々、そうじゃないこともあるの。」
頬を伝う涙が、草の上にぽたりと落ちた。
ハルメが涙を見せるのは、仲間にとって初めてのことだった。
ジンが静かに言った。
「お前が泣いたって、誰も困らないさ。むしろ安心するんだよ。“本音を見せてくれた”ってな。」
フユカは苦笑しながらも、優しく肩を叩いた。
「そうよ。あんた、無理しすぎ。たまには人に甘えなさいよね。」
カヤノは涙を浮かべながら微笑んだ。
「ハルメの素直な気持ちを知れて、僕はうれしいよ。」
リリルも穏やかな声で付け加えた。
「本当のあなたが、いちばん素敵よ。」
心をほどく香り
その瞬間、森に甘く柔らかなネロリの香りが漂った。
香りはまるで抱きしめるように、ハルメを包み込む。
胸の奥のこわばりが溶けるにつれ、涙はとめどなくポロポロとあふれた。
しばらく泣いたハルメは、しゃくり上げながらも、小さな笑顔を浮かべた。
「……ありがとう。みんなには、もうちょっと“ほんとうの気持ち”を見せてもいいんだね。」
あなたへのメッセージ
明るく振る舞うことが得意な人ほど、心の奥で寂しさを抱えていることがあります。
「自分が元気でいなきゃ」「周りを明るくしなきゃ」と思うあまり、
本当の気持ちを隠してしまうのです。
でも、無理をしなくても大丈夫。
ときには泣いて、弱さを見せることも、かけがえのない強さです。
もしあなたも“笑顔の仮面”をかぶっていると感じるなら、
信頼できる人に少しだけ、本当の気持ちを見せてみませんか?
涙を流したハルメの笑顔は、今までよりもずっとやさしく、あたたかいものだった。
その笑顔こそ、周りを明るくしてくれる。
そして、一歩一歩進む5人の精霊たちの物語は、新たな道につながっていく―。
🍀次回、第6話「森がつなぐ5つの心 ―”あなた”のはなし」